荒れ地のなかスタジオ2019準備録1

荒れ地のなかスタジオ/In-Field Studio 2019 in Otama (https://infieldstudio.net)

「ネパール(とインド)に行って学んだことを持ち帰る」

(初出:ときの忘れものブログ佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第29回

5月頭、日本が平成から令和に切り替わっている最中、ネパールとインドへ行ってきた。
ネパールは石山修武さんのWhite Mountain Moon Collage (WMMC)という名前の短期学校へ。詳しくは石山さんの日記に詳述されていますが、自分にとっては、
・Patan市内の鋳造工房の制作プロセスを実見したこと
・自分の日本とインドでの仕事の連関について、ネパールから考え、近未来の実践(これは日本の福島・大玉村で)に結びつきつつあること
が収穫だった。
Patanでの仏具鋳造工程(Metal Casting)は、蜜蝋(WAX)でモデルを作り泥を塗って鋳型を作るもの。中心部から少し離れた工場集積エリアの中の鋳物工場を見学した。
真鍮の溶解温度は800度程度なので、石炭と木材程度の火力で十分に制作が可能だということがわかった。また、どの鋳物もまず元となる蜜蝋モデルを手で作り、土の鋳型を作って鋳込むので、原理的に一品生産型の方法である。つまりおおよその作る大きさと仕組みが同じであれば、細部は一つ一つ異なるようにもでき、小規模生産と大中規模生産の間をすり抜ける別種の生産モデルとなるのではないかという可能性が見える。日本の古代・中世頃も同種の鋳造方法が行われていたようである。現代彫刻においてももちろんやられている(蝋型鋳造彫刻)。

1
2(蜜蝋モデルは、ナイフを熱で温めて外形を切り出し、水牛の角でできたいくつかの大きさのヘラで形を整えていく。あとは素手のモデリング。)
3(成型した蜜蝋モデルの表面に、まずシルトと牛糞を混ぜたものを塗り、さらにその上に泥とコメ殼を混ぜたものを塗って鋳型をつくる。)
4(そして出来上がったダルマのような鋳型を石炭と堅木の薪で焼いて、中から蜜蝋を注ぎ出し、出来上がった空洞に溶かした金属を入れていく。)

日本へ帰国した後、福島県の大玉村で、さっそく蜜蝋モデル作成までを実験してみた。蜜蝋の扱いがいまいちで、うまくモデリングができないが、勝手は分かった。鋳込むために必要な湯道の付加など、おそらく原型となる形から予期せぬ次の形が生まれてきそうな予感もある。
どうにか、建築に付随する金物を作るところまで進めたい。

5(ネパールで買った蜜蝋。800rs-/KG)
6(湯道を造形に貫入させてみようかと思って作った蜜蝋モデルの一部)

蜜蝋は、蜂の巣板から精製して作られる。であれば、その材料入手のために、ここ大玉村でミツバチの養蜂からするべきじゃないかと考えた。けれども、どうやら大玉村を含む安達群では、数年前からミツバチの姿が一切見られなくなってしまったという。原因はダニの発生の可能性が高いらしいが、農薬散布などの自然環境の変容も無視はできないかもしれない。ミツバチの帰還を目指すことは、この村の環境の恢復にも繋がることだろうと思う。そうした環境の回路(サイクル)あたりが、蝋型鋳造の一品生産性と繋がってきもするだろう。
そういえば、今回のネパール滞在中偶然出会った、カトマンズに暮らす日本の人に昨年末ときの忘れもの個展「囲い込みとお節介」で作った木製写真機(「囲い込むためのハコ1」など)の写真を見せたら、「養蜂してるの?」と言われてしまった。その時は、ただただ「いや、まさか!」なんて答えてしまったが、そんな過去に作ったモノが今現在の思考に意図せずに合流するなんてことは、実はとても嬉しい。その意図せずの合流を本筋にしてみたいとも企んでいる。
7(「囲い込むためのハコ1」2018年、クリ,ナラ,アルミ,柿渋、H80cm Photo by comuramai)

先のネパールWMMCの中で短いレクチャーをする機会を得、インドでの仕事について若干の発表をやらせてもらった。改めて、いま自分が移動しているその意味(意気込み)を考えてみれば、やはり福島とインドそれぞれが今現在に持ち得る「技術」(Technology)の可能性を捉えるためだろうという内容。そしてその双方の技術の交わる部分、あるいは両者を繋げることで生まれる別種の途を探そうとしている、いうところまで考えた。
震災後の福島と、近代化が進むネパールとインドの農村。安易にカテゴライズはできないが、ともかく異種のローカル、Local Technologyの掛け合わせを探したい。

8(発表のために描いたアジア地図)

9(「Project in Santiniketan」についてのお手製資料)

帰りがけに寄った、IndiaのKolkataでは、現地の建築家Milon Dutta氏と住宅プロジェクトについて打ち合わせ。このプロジェクトは、今年10月大阪で開催され出展する、「U-35展」にて紹介させてもらう予定。タイトルは「『工作』あるいは、”わざわざ”と呼んでみる『技術』」。
Milon氏には、同じく今年9月、福島県大玉村で開催する予定(準備中)の「In-Field Studio 2019」に参加してもらうことにもなっている。
上記二つの活動は、始めに述べた蝋型鋳造の試行や、養蜂恢復への意思と、半ば直接に、正直に合流させるつもりだ。